ISO情報
◆ 多い建設会社のISO導入失敗の構図 ◆
ISOの維持に苦しむ、中小の建設業者さんが増えています。
どうしてこのような状況が発生したのでしょうか?


建設業のISO導入後の現状

 急増
した建設業のISO取得 
  ISO9000シリーズの認証は、当初は製造業が中心でしたが、1999年ごろから国土交通省の通達等が影響し、建設業の認証取得が増え始め、今では新たに認証を受ける会社の半分近くが建設業です。
 総数でも、日本で認証を受けている会社30000社のうち、約3分の1の11000社が建設業となりました(統計は2003年3月JAB認定数。国外認定を含まない)。

 公共工事の入札とISO9001
 建設業者がこのようにISO9001取得に向かうのは、公共工事の入札の問題からです。国土交通省(建設省)は、2000年よりISO9000を入札参加条件とする試行をはじめ、2002年度は約180件の工事がその対象となりました。都道府県レベルでも、既に20以上の都府県が、入札条件や入札ランクへの考慮を行っており、今後も広がる様相です。
 入札への影響を懸念する建設業者が一斉にISO取得に乗り出したのが、建設業者の認証が急増した理由です。

 うまく行っていない建設業のISO
 こうして進んだ建設業界のISO9001について、業界内での評判は良くありません。「余分な仕事が増えた」「記録の捏造に追われる」「お金がかかる」など散々です。ISO9001を取って良くなったという建設業者はほんの一握りで、多くの会社は使えない数cmの規定文書を抱えて困っています。
 審査側からも「出来合いの品質マニュアルと実態とがまったく合わず、審査にならない会社がある」とボヤキが聞こえてきます。
 また、受審業者の中には小さな会社が多く含まれており、地方の社員が数10人、年商10億円程度の会社が次々とISO9001の認証を受けています。小さな会社が無理をしてISOを取り、メリットを出せず、経営を圧迫している点も大きな問題です。
 なぜ、建設業界のISO9001はうまく行かないのか。どこでボタンを掛け違えるのか。


構図1 公共工事で元は取れない

ISOで公共工事の受注は増えない

「ISOで1000万かけても、入札で大きな工事を取れたら元は取れる」
これって本当ですか?
 従来ならば、ISOなどなくても取れた工事。1000万の利益が出るはずが、ISOのおかげで儲けなし。どう考えても大損です。
 ISOで掛かった費用を回収するには、今までよりもたくさん注文を取って、利益を増やさなければなりません。しかし、ISOで公共の仕事を増やすのは困難で(むしろ公共事業削減で減るばかり)、ISOの費用はすべて持ち出しになります。公共工事では、決して元は取れないのです。

民間工事や下請工事でがんばる

 ISOの対象を「公共元請工事に限定した」という話をよく耳にしますが、それで良いのでしょうか。ISO取得をテコに受注を増やし、利益が出る可能性があるのは、公共工事ではなく民間工事や下請工事です。だから、民間・下請工事こそ真剣にISOをやって、顧客に信頼してもらう必要があるのです。
 入札だけを考えたISO9001では、企業の体力を消耗するだけです。他の手段で投資分を取り戻さなければ帳尻が合いません。
 なお、公共工事専門の会社は、受注増は困難です。内部のコストダウンや施工不良の防止で投資を回収するしかないので、社内改革をがんばりましょう。



構図2.でも、ハードルは跳び越えなければならない

小さな会社も取得に走る

 入札の参加資格としてISOが必要なのは、当面は数億以上の工事。ところが、小さな建設業者もどんどんISOを取っています。その理由は・・・
  ◆将来、公共工事の入札条件になるかもしれない
  ◆入札の指名業者を選ぶ際に考慮されるかもしれない
  ◆入札ランクの加点項目になっている
  ◆大手ゼネコンの下請選定の条件になるかもしれない
  ◆取得していないとイメージダウンになるかもしれない
 いずれも不確かなものばかり。それでも、無視できないのでみんな悩んでいるのです。


生き残り競争の不安

 建設業界では、電子入札、電子納品、労働安全マネジメント、建設リサイクル法、ISO9001など、新たな管理システムが目白押しです。
 建設業者の激しい生き残り競争の中で、これらのシステム導入が「行政による業者選別のためのハードル」と受け止められるのは、やむをえない気もします。「とにかく、出されたハードルを跳び越えなくては生き残れない」と、みんな必死なのです。

 でも、だからといって、「ISO9001で利益を出そうなどと思ってはいけない。このような無駄なものにお金を出す力があるかどうかを試されているのだから」というのは、違いますよ。


構図3 従来の手法が通用しない 

ISO9001は文書作りではない

 コンサルタントに品質マニュアルを作ってもらう会社がありますが、その多くは品質マニュアルと実態が遊離し、記録の偽造に追われています。なぜこうなるのでしょう。
 今までの、建設業の許可申請や税金の申告などにおいて、行政書士や税理士に書類を作ってもらうことは合理的な方法でした。これらは書類で報告することが目的だからです。そしてISO9001もこれらと同じだと思ったことが、最初の失敗だったのです。

 ISO9001は品質マニュアルを提出した時点からがスタートです。審査では品質マニュアルの通りに仕事をしているかが調査されます。だから、品質マニュアルを自分の会社の仕事に合うように作っていなければ、大変な重荷になります。
 社外の人に作ってもらった品質マニュアルの通りに仕事をすることなど、絶対に不可能です。自社の仕事は、自社で決めましょう。

機動力がアダになる

 建設業は、公共工事を巡って行政とのつながりが深く、いつも大量の書類を作成し、提出しています。そこで、機動力のある会社は、この大量の書類を手際良く作ってしまいます。このような会社がISO9001に取り組むと、近隣の業者から品質マニュアルや規定類を集めてきて、あっという間に同じものを作ります。
 しかし、ISO9001は仕事に合わせて書類を作るのが重要で、書類を先に作ってしまうと動けなくなります。自慢の機動力がアダになって、他社の丸写しの動かないシステムを作ってしまうのです。



構図4 誤った情報に踊らされる


ISOは社内改革に役に立つものだったのですね

「ISOは社内改革に役に立つものだったのですね。初めて知りました」
 これは、地方の建設業者さんにISOの説明を行った後に、何度か聞いた言葉です。地域の集まりでは、入札に必要とか、書類が増えるといった話しか聞いたことがないそうです。
 建設業界のISO9001がうまく行かないのは、「利益優先でまじめに取り組まない、建設業界の体質のせいだ」と言う人もいますが、そうではありません。経営者はみんな会社を良くしたいと思っています。会社の体力を落とすことを分かっていて、無理なISO9001導入をする経営者などいません。
 それにもかかわらず、判断を誤るのは、正しい情報がないからなのです。



目先の費用にこだわり維持費に苦しむ

 地方の中小の建設業者には、ISO専門の職員を置く会社も多いようです。これは、おかしなことです。ISO9001に関わる業務のほとんどは日常業務の中で行われるので、まともにISOが機能すれば、専任の職員などいらないのです。
 「正しく機能するISO」と「企業の足を引っ張るISO」の間には、専任の職員の人件費だけを考えても、年間500万円以上の維持費の差があります。
 コンサルタント料や審査料などの目先の費用を最優先に考える企業もありますが、初期投資の差は、その後のメリット(失敗のデメリット)から見れば小さなものです。安かろう悪かろうの情報に惑わされず、長期的な利益を考えた判断が必要です。
 このように、目先に判断にとらわれず、自分の会社の身丈に合わせたシステム構築が最も重要なことです。




構図5 失敗したシステムがコピーされてゆく

大企業の丸写しが中小業者を押しつぶす

 建設業界では、大手ゼネコンからISO9001の取得が始まりましたが、重厚なシステムを作りすぎて、うまく動かなかったところも多いようです。しかし、続いて取り組んだ中小の建設業者は、これらを参考にしました。
 ある会社は、大手ゼネコンから書類の提供を受け、ある会社はその社員や出身者から指導を受けました。こうして、重厚なシステムが中小企業に移植され、ますます動かないシステムになりました。

建設業界の中だけで回っている

 建設業者がISO9001を検討する際に、近隣でISOがうまく行っている工場を訪ねて話を聞けば、ISOの効果や活用の仕方が分かると思うのですが、そのような話はあまり聞きません。建設業には、自らが特殊な業界であるとの意識が強いので、ISOの話も同業者に聞き、失敗したシステムの間違った情報を聞き込んでくるのです。
 建設業界のISOは、建設専門のコンサルが指導し、建設専門の審査機関が審査し、業界の中だけで物事が回っているイメージです。その結果、ISO9001の世界の中で建設業界だけが半分独立し、うまく行かないシステムが増殖しているようです。

 ISOの情報は、異業種でも良いので、メリットを出している会社の話しを聞きましょう。
うまくいっていない会社の話は、間違った情報ばかりなのでかえって害になります。



<成功のために> 正しい情報を元に正しい経営判断を


ISO取得の目的を誤らないこと

 公共工事が減少する中、建設業者の生き残りをかけた競争が年々激しくなっています。建設業者は3年後、5年後、10年後を見据えて、経営基盤の強化を図らなければなりません。
 そのために、ISO9001、ISO14001等は、格好の改革ツールの役割を果たします。


 ISO9001導入に成功するか失敗するかの分岐点は、ISOに取組む最初の段階で「ISO9001取得の目的を正しく設定できるか」にかかっています。
 信用獲得、品質向上、業務改革といった各々の目的を持ってISOに取り組み、会社の問題点を解決すれば、本当に役に立つ仕組みが出来上がります。
 


投資を回収しメリットを出そう

 ISO9001という大きな投資をするからには、それを回収しなければいけません。公共事業対策でISO9001を取得することは仕方ないにしても、同時に別のところで元を取ることを考えましょう。2面作戦です。

1.民間建築工事や下請工事の受注増に繋がるように活用しましょう。
2.コストダウンをしましょう。施工計画の精度をアップし、トラブルの再発防止を徹底しましょう
3.ISO9001を進める中で、以前からの会社の課題を片付けましょう。社長がやりたかった改革をやりとげられれば、金銭的メリットに匹敵する値打ちがあります。
4.無名の会社、新しい会社などでは、ISO9001は知名度や信用アップの有効な手段です。

 このようにして会社の基盤が固められれば、3年後、5年後にはさらに大きなメリットを生み出し、企業の躍進を果たせるでしょう。